アメリカ – 新たな大国・新世界代表

ワイン

米国は世界有数のワイン生産国であり、ワイン産業が果たす経済的役割は非常に大きいものがあります。米国人の間でもワインの人気は年々高まっており、国内消費量は過去最高を更新し続けています。

しかし、米国ワイン産業の歴史は実は浅く、本格的な発展が始まったのは20世紀後半以降のことです。その歴史的な転機となったのが、1976年のパリスの審判という出来事でした。この時、カリフォルニア州のワインが、フランスの著名シャトーのワインを押さえて赤白ワイン部門で勝利したのです。

この衝撃的な結果により、米国ワインは世界の舞台に華々しくデビューを果たすこととなります。以降、各地のワイン産地が発展を遂げ、ブドウ栽培とワイン醸造の技術も飛躍的に向上しました。今や米国には世界最高峰のワインが多数誕生していると言っても過言ではありません。

特に西海岸を中心に、個性的で高品質なワインを生産する名門産地が数多く存在しています。カリフォルニア州のナパ・ヴァレーをはじめ、ソノマ、セントラル・コーストはカリフォルニア最高の銘醸地と謳われ、オレゴン州のウィラメット・ヴァレーやワシントン州のコロンビア・ヴァレーも世界的な評価を得ています。

このように、米国は長い歴史に裏付けられた伝統を持たないものの、近年ワイン文化が一気に発展を遂げました。

パリスの審判

1976年5月24日、スティーヴン・スパリュアによってパリで行われた一つの試飲会が、ワイン界に衝撃を与えることになりました。これがいわゆる「パリスの審判」と呼ばれる出来事です。

フランス最高級のボルドー・ワイン(赤)とブルゴーニュ・ワイン(白)、そしてカリフォルニアのワインがエントリーされました。審査員にはフランスの著名ワインマスターが起用され、出品ワインのラベルは伏せられた状態で行われました。

しかし。赤ワイン部門ではカリフォルニアの、スタッグス・リープ・ヴィンヤードのカベルネ・ソーヴィニョンがトップに輝きました。敗れたのはシャトー・ムートン・ロートシルト、シャトー・オー・ブリオン、シャトー・モンローズなどフランスを代表する一流シャトーワインでした。

白ワイン部門でも、カリフォルニアのモンテレーナ・ワイナリーのシャルドネが優勝。バタール・モンラッシェやムルソーといった名門白ワインを下しての勝利となりました。

この試飲は世界中に大きな衝撃を与えました。カリフォルニアワインは、一気に世界最高峰の仲間入りを果たしたのです。

このパリスの審判の勝利によって、カリフォルニアワインの品質の高さと可能性が世界中に知れ渡ることになりました。これをきっかけに、次々とカリフォルニアをはじめ米国各地のワイン産地が発展。今や世界最高のワインがたくさん誕生する一大ワイン王国に成長したのです。

ロバート・パーカーの影響力

パリスの審判によってカリフォルニアワインの評価が一変したのと時を同じくして、ある一人の評論家の存在が、米国ワイン、特にカリフォルニアワインの躍進を大きく後押しすることになります。その人こそ、ロバート・パーカーと呼ばれる影響力の大きなワイン評論家です。

パーカーは1978年に自身のワイン評価誌「ザ・ワイン・アドヴォケイト」を創刊し、100点満点という点数評価方式を最初に導入しました。この方式は分かりやすく、一目で優れたワインが判別できるため大変革新的でした。当初は辛辣な批評で知られましたが、次第に高評価を下したワインが高値で取引されるようになり、大きな影響力を持つようになっていきます。

特にパーカーが高く評価したのが、カリフォルニアのナパ・ヴァレーを中心に造られる、濃厚で渋味の強いカベルネ・ソーヴィニョンなどの赤ワインでした。豊富なフルーツ味わいとオーク由来の香りの余韻の濃さ、タンニンの凝縮感を重視したスタイルのワインが、パーカーのお気に入りだったのです。

このパーカーの嗜好が、多くのワイン愛好家に受け入れられ、カリフォルニアワインの主流的なスタイルを決定づけてしまいました。数値化された点数に意味を持たせたパーカー自身の権威も相まって、高いポイントを獲得したワインがブームとなり、高値で取引されるようになったのです。

一方で、パーカーのようなワイン評論家に過度に依存しすぎることへの批判や、濃厚で力強いスタイルのワインしか評価されないのではないかといった懸念の声も上がるようになりました。いずれにせよ、パーカーの影響力は計り知れず、米国ワイン業界の発展を大きく後押ししたことは間違いありません。

主要ワイン産地の紹介

米国には多種多様なワイン産地が点在しており、それぞれ独自の個性的なワインが生産されています。中でも西海岸地区の主要産地は、高品質なワイン生産で世界的に高い評価を獲得しています。

カリフォルニア州

  • ナパ・ヴァレー  パリスの審判の舞台となったこの地区は、米国屈指の銘醸地として名高く、カベルネ・ソーヴィニョンを主体とした濃厚で力強いスタイルの赤ワインが特に優れています。スクリーミング・イーグル、ダックホーン、オーパスワンなど多くの超高級ワインが生まれる地域です。
  • ソノマ・カウンティ ナパに次ぐ重要ワイン産地で、冷涼な気候を活かしたピノ・ノワール、シラーズ、ジンファンデルなどが評価されています。
  • セントラル・コースト 太平洋に面した冷涼な気候で、軽やかでエレガントなスタイルのピノ・ノワールとシャルドネが特徴です。

オレゴン州

  • ウィラメット・ヴァレー 高い国際評価を得ているピノ・ノワールの名産地で、アメリカの生産地の中でも特に冷涼です。気候が比較的ブルゴーニュ地方に似ていることから”ネクスト・ブルゴーニュ”と言われています。

ワシントン州

  • コロンビア・ヴァレー 内陸部の寒暖差が大きい大陸性気候で、しっかりとした骨格とタンニンを備えたメルローや濃厚なシラーズなどが特徴です。

ニューヨーク州

  • フィンガー・レイクス 東海岸の有力ワイン産地で、寒冷地特有のフレッシュな酸味とキリッとした味わいのリースリングが人気があります。

このように、米国各地で気候とテロワールを活かした個性的なワインが生産されており、そのポテンシャルの高さが評価されています。

主要品種とスタイル

米国産ワインで特に有名なのが、カリフォルニアを中心に造られる赤ワイン用品種のカベルネ・ソーヴィニョンとメルローです。

カベルネ・ソーヴィニョン

ナパ・ヴァレーやその周辺で造られるカベルネは、濃厚でパワフル、タンニンが凝縮感があり、ロバート・パーカーが高く評価するスタイルが主流です。オーパス・ワン、ドミナスなどの超高級ワインが有名です。

メルロー

ソノマ、セントラル・コースト、ワシントン州のメルローは、なめらかでフルーティな味わいが特徴的です。

その他、ピノ・ノワールやジンファンデルも人気があります。特にオレゴン州のピノ・ノワールはエレガントで評価が高いです。

一方の白ワイン用品種では、カリフォルニアのシャルドネ、樽発酵や樽熟成による豊かな香り、しっかりとしたボディが魅力です。

ニューヨーク州のリースリングは、すっきりとした酸味とキレのある味わいが魅力的です。

スパークリングワインの分野でも、近年は高品質な製品が増えてきました。特に高評価なのがカリフォルニアの瓶内二次方式による発泡ワインです。

米国ワインの魅力と課題

米国ワインが世界的な評価を獲得している最大の魅力は、豊かな可能性を秘めた素晴らしいテロワールと気候条件にあります。

西海岸一帯は太平洋に面しており、海からの冷たい風が葡萄園を冷やす効果があります。一方、内陸部はドライで日較差が大きい大陸性気候となっています。このような環境により、色濃く凝縮感があり、酸味とタンニンがしっかりしたワインが生み出されるのです。

また、カリフォルニアを中心に、ワイン産業は技術革新を積極的に取り入れてきました。畑での新しい栽培方法の導入、より洗練された醸造施設の整備、科学的根拠に基づく徹底した品質管理などが行われています。こうした努力が実を結び、卓越した品質のワインが生産できるようになったのです。

さらに米国ワインの大きな魅力は、価格とコストパフォーマンスの高さにあります。高級ワインでも手が届きやすい価格帯が多く、初心者からセミプロフェッショナルまで、幅広い層に支持されています。

一方で、近年の課題としては環境問題への対応が挙げられます。ワイン用ブドウ園の過剰な農薬や灌漑による水の使用が危惧されており、有機や ビオデナミ畑の拡大、節水対策の推進などサステナビリティ対策が急務となっています。

加えて、海外での認知度向上も大きな課題です。パリスの審判の勝利以降、ワインの品質は確かに上がってきましたが、まだ世界的に見ると「新しいワインの産地」という認識が根強く残っています。伝統を誇るフランスなどの古典的ワイン国に対抗できるよう、さらに歴史を重ね、ブランド力とワイン文化を高めていく必要があるでしょう。

このように、素晴らしいテロワールと先進的な技術を武器に、高品質で手頃な価格のワインを生産できる可能性を秘めた一方で、環境問題や海外でのブランディングなど、乗り越えるべき課題も残されています。

終わりに

米国ワイン業界は、1976年のパリスの審判という一大事件によって、世界の舞台に飛躍することができました。カリフォルニアのワイナリーが、フランスの超一流シャトーワインを打ち破った衝撃的な結果は、旧世界ワインの覇権に風穴を開けるものでした。

この出来事がきっかけとなり、米国各地でワイン産地が次々に発展を遂げていきます。カリフォルニアのナパ・ヴァレーを中心に、ソノマ、セントラル・コースト、そしてオレゴンのウィラメット・ヴァレー、ワシントン州のコロンビア・ヴァレーなど、個性豊かで高品質なワインを生み出す名門産地が数多く誕生しました。

こそして、短期間のうちに米国は世界最高峰のワイン生産国の仲間入りを果たしました。恵まれた気候とテロワールを持つ各地で、個性豊かで可能性に富んだワイン造りが展開されているのです。

しかし一方で、環境問題への真剣な取り組みや、海外でのブランディングの強化など、乗り越えるべき課題も山積しています。長い伝統を誇る欧州ワイン国に伍して行くには、技術面だけでなく、独自のワイン文化の確立が不可欠となるでしょう。

今後の米国ワイン業界の飛躍が期待されますが、その発展を左右するのは、生産者一人ひとりのワイン造りへのこだわりと努力にかかっているといえるでしょう。読者の皆さんにも、是非米国ワインの魅力を実際に味わい、楽しんでいただきたいと思います。

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