はじめに
イタリア半島の北西部に位置するトスカーナ地方は、古くから有名なワイン産地として知られています。トスカーナは地中海性気候に恵まれた温暖な気候と、多様な土壌が重なり合い、ブドウ栽培に最適な環境を提供しています。
トスカーナのワイン造りの歴史は紀元前7世紀までさかのぼると言われ、エトルリア人がこの地でブドウ栽培を始めたのが最初だと考えられています。やがてローマ時代に入ると、ワイン生産が本格化。中世を経てルネサンス期には、メディチ家をはじめとする有力貴族がワイン文化の発展を強力にリードしました。
近代に入り、20世紀半ばの新法制定により、キャンティ、キャンティ・クラッシコなどの原産地呼称が誕生。さらに1970年代以降の「スーパータスカン」ブームで国際的な評価が高まり、今日に至るトスカーナワインの礎が築かれました。
トスカーナは、品質とテロワールへのこだわりが根付く地域です。ブドウ畑の微気候や土壌の違いを活かしつつ、伝統と革新が共存する、大変魅力的なワイン産地です。
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主要ワイン産地の紹介
トスカーナには数多くのワイン産地が点在しますが、中でも以下の4つの地域が代表的で有名です。
キャンティ地区
フィレンツェの南部に位置するキャンティは、トスカーナで最も古くからワイン生産が行われてきた地域です。キャンティ・クラッシコをはじめ、キャンティ、キャンティ・リゼルヴァなどの呼称が使われています。主要品種はサンジョヴェーゼで、渋みと酸味が特徴的なスタイルです。
モンタルチーノ地区
シエナの南東約30kmに位置するモンタルチーノは、ブルネッロ・ディ・モンタルチーノで世界的に知られる産地です。100%サンジョヴェーゼ種を使い、最低5年の熟成を経てリリースされるブルネッロは力強く凝縮感があり、長期熟成に適したスタイルが魅力です。
モンテプルチャーノ地区
シエナとオルビエートの中間に位置するモンテプルチャーノは、ヴィーノ・ノビレ・ディ・モンテプルチャーノで有名です。サンジョヴェーゼとカナイオーロ種をブレンドしたスタイルが一般的で、樽香とスパイシーさが特徴です。
ボルゲリ地区
リヴォルノ沖のボルゲリ半島一帯が産地です。ボルゲリ・ロッソやボルゲリ・ロッソ・スぺリオーレなどの呼称が使われ、サッシカイアをはじめとするスーパータスカンが生産されています。カベルネ・ソーヴィニョンやメルローなどの国際品種を使ったモダンスタイルが多数見られます。
代表的な品種とワイン
トスカーナで使われる主要なブドウ品種とそこから生まれるワインを見ていきましょう。
サンジョヴェーゼ
トスカーナを代表する赤ワイン用品種で、由緒ある歴史を持ちます。渋みと酸味が特徴的で、丸みのある中程度のタンニンを持つスタイルが一般的です。キャンティ、キャンティ・クラッシコ、ブルネッロ・ディ・モンタルチーノ、ヴィーノ・ノビレ・ディ・モンテプルチャーノなどの代表的なワインにこの品種が使われています。
カベルネ・ソーヴィニョン
1970年代から本格的に使われ始めた国際品種です。ボルゲリなどで単一品種やブレンドとして使われ、モダンでパワフル、タンニンと渋味の強いスタイルが一般的です。サッシカイア、オーネロなどの著名ワインに使われています。
メルロー
カベルネ・ソーヴィニョンとブレンドされることが多い品種で、滑らかでまろやかな味わいが特徴です。単一品種のメルローもあり、ボルゲリやマレンマなどの産地で見られます。マッサラドゥーノなどがその代表例です。
ヴェルナッチャ
トスカーナ固有の白ワイン用品種で、フレッシュでミネラル分が豊富な味わいが特徴です。ヴェルナッチャ・ディ・サン・ジミニャーノなどの白ワインに使われます。
このようにトスカーナではサンジョヴェーゼをはじめとした地場品種と、国際品種が様々なスタイルで用いられ、多彩なワインが生み出されています。
トスカーナのワインの特徴と評価
トスカーナワインは、古典的なスタイルと近年のモダンスタイルが共存し、豊かな個性を放っています。
古典的なスタイル
伝統的なトスカーナワインは、サンジョヴェーゼ主体で、渋味と酸味がしっかりとした骨格を持つのが特徴です。キャンティ、キャンティ・クラッシコ、ブルネッロ・ディ・モンタルチーノ、ヴィーノ・ノビレ・ディ・モンテプルチャーノなどがこのスタイルの代表格です。熟成に適した骨太なタンニンを持ち、複雑味と長期熟成による旨味が魅力です。
モダンスタイル
1970年代以降、国際品種の導入やスタイル革新が進み、モダンでパワフルなワインが登場しました。ボルゲリを中心に生まれた「スーパータスカン」は、カベルネ・ソーヴィニョンやメルローなどをブレンドし、新樽によるオーク香と凝縮した果実味が特徴的です。サッシカイア、オーネロ、マッサラドゥーノなどが有名です。
高評価のワインと理由
世界的に高い評価を受けるトスカーナワインは多数あります。ブルネッロ・ディ・モンタルチーノは100%サンジョヴェーゼの骨太さと複雑味、熟成性の高さから絶賛されています。ボルゲリ最高等級のボルゲリ・ロッソ・スーペリオーレも、上品で洗練された味わいが評価されています。
価格帯は幅広く、生産量の少ない高級キュヴェが10万円以上するものの、5,000円前後の手頃なものから様々な価格帯のワインがあります。飲み頃は造り手やビンテージにより変わりますが、一般的には5年から10年が目安とされています。
スーパータスカン
1970年代初頭、伝統に縛られずに革新的なワインづくりを目指した一部の生産者が、サンジョヴェーゼに加えて国際品種のカベルネ・ソーヴィニョン、メルロー、カベルネ・フランなどをブレンドし始めました。彼らはDOC/DOCGの法的枠組みに縛られずに自由なスタイルを追求し、素晴らしい高品質ワインを生み出していきます。
代表的なスーパータスカンが、サッシカイア(テヌータ・サン・グイド)やティニャネッロ(アンティノリ)です。
スーパータスカンの特徴
スーパータスカンの最大の特徴は、サンジョヴェーゼに加えてカベルネ・ソーヴィニョン、メルロー、カベルネ・フランといった国際品種をブレンドしていることです。新樽熟成による濃厚なオーク香と凝縮した果実味、しっかりとしたタンニンが際立っています。
さらに、低い収量制限と長期熟成によって、凝縮した味わいと熟成性の高さを実現しています。価格は高めですが、その品質の高さから世界中の愛好家を魅了し続けています。
評価と影響力
スーパータスカンは、伝統とは決別した革新的なスタイルながら、その高品質さから瞬く間に世界的な評価を獲得しました。パーカーポイントでも90点を超える高評価を受けるようになり、トスカーナワイン全体のイメージアップと人気の再燃に大きく貢献しました。
さらに、この成功によってワイン法の規制緩和が進み、自由なスタイルが認められるようになりました。スーパータスカンは、トスカーナのワイン文化に新たな息吹を吹き込んだ存在と言えるでしょう。
代表的なDOCGとDOC
トスカーナには多くの優れたDOCGやDOCが存在します。代表的なものを以下に紹介します。
- キャンティ・クラッシコDOCG:キャンティ地区で最高の呼称を持つワイン。主にサンジョヴェーゼ種を使い、骨格のしっかりしたスタイル。最低2年の熟成が義務付けられている。
- ブルネッロ・ディ・モンタルチーノDOCG:モンタルチーノ村近郊で生産される100%サンジョヴェーゼ種のワイン。最低5年の熟成が義務付けられ、長期熟成に適したパワフルな味わい。
- ヴィーノ・ノビレ・ディ・モンテプルチャーノDOCG:サンジョヴェーゼとカナイオーロ種でつくられる、モンテプルチャーノ地区の代表的ワイン。スパイシーでエレガントなスタイル。
- キャンティDOC:キャンティ地区で最もよく知られたDOCワイン。サンジョヴェーゼを主体に、より手頃な価格で親しまれている。
- ボルゲリDOC:ボルゲリ半島一帯が産地で、カベルネ・ソーヴィニョンやメルローなどの国際品種が用いられるモダンスタイル。ボルゲリ・ロッソ、ボルゲリ・ロッソ・スーぺリオーレなどがある。
料理との相性
トスカーナワインは、同地方の郷土料理をはじめ、イタリア料理全般と素晴らしい相性を持っています。
トスカーナ料理との相性
トスカーナ料理は、シンプルながらも旨味が凝縮された味わいが特徴です。キャンティやキャンティ・クラッシコなどの渋みと酸味のあるスタイルは、豚肉を使った郷土料理「ラザニア」や「ビステッカ・アッラ・フィオレンティーナ」といった肉料理にぴったりです。酸味がお料理の脂っこさを中和し、お互いの味を引き立てます。
一方でブルネッロ・ディ・モンタルチーノのような骨格のしっかりしたワインは、あふれる旨味とタンニンでジビエ料理や煮込み料理を包み込み、絶妙なペアリングを見せます。
肉料理、チーズとの相性 赤身の肉、特にステーキやランプ肉、牛肉の炭火焼などとの相性が良いのがトスカーナ赤ワインの特徴です。力強いタンニンと渋味が肉の脂っこさを受け止め、お互いの風味を際立たせます。サッシカイアのようなモダンスタイルはカベルネ由来の凝縮した果実味と豊かなタンニンで、肉料理を存分に楽しめます。
また、ペコリーノ・ロマーノやペコリーノ・トスカーノといったトスカーナの伝統的な硬質チーズともよく合います。チーズの塩味、コクと赤ワインのタンニンの組み合わせは抜群です。
このようにトスカーナ料理、肉料理、チーズなど、シンプルだけれど旨味が濃厚なお料理との相性が抜群なのが、トスカーナワインの魅力の一つと言えるでしょう。
おわりに
トスカーナは古くから名門ワイン産地として知られ、サンジョヴェーゼをはじめとする伝統的な品種から、近年ではカベルネ・ソーヴィニョンやメロー等の国際品種までを用い、多彩なスタイルのワインを生み出してきました。
キャンティ、ブルネッロ・ディ・モンタルチーノ、ヴィーノ・ノビレ・ディ・モンテプルチャーノといった古典的なスタイルでは、渋味と酸味がしっかりとした骨格を持ち、長期熟成による旨味と複雑味が魅力です。一方で、サッシカイアやオーネロに代表されるスーパータスカンは、新樽由来の濃厚なオーク香と凝縮した果実味、豊かなタンニンが特徴的です。
このように伝統と革新が共存するのが、トスカーナワインの大きな魅力です。ぜひ、骨太でタンニンの強い赤ワインから、モダンでパワフルな赤ワインまで、様々なスタイルを味わっていただきたいものです。
今後のトスカーナワイン界でも、環境保護や持続可能性への関心が高まっており、有機やビオディナミの手法を取り入れる生産者が増えつつあります。変わらぬ品質への追求と、時代に合わせた新しい取り組みが行われていくことでしょう。
旅行に行く機会があれば、実際にトスカーナの美しい丘陵地帯を訪れ、ブドウ畑を眺め、産地のワインを味わってみることをお勧めします。ワインだけでなく、美しい景色や郷土料理も堪能できるはずです。トスカーナワインの魅力をご自身で体感されれば幸いです。
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